目白漆學舎にて
目白漆芸文化財研究所(東京都新宿区)が主宰する目白漆學舎。その代表であり、人間国宝の室瀬和美先生とご長男の室瀬智弥氏に學舎の活動や漆を通した教育などについて話を聞いた。
漆を通した教育 次世代への継承
目白漆學舎
學舎の活動趣旨は大きく分けて二つ。一つは、専門家が集い、様々なテーマによる勉強会を開催し、専門知識を高め合うこと。もう一つは、漆を知らない人に対して漆の魅力を伝えること。後者の活動の一つが子どもたちを対象にしたワークショップだ。
漆のお椀に口をつけてもらい、独特のやわらかい口触りを体感してもらったり、蒔絵体験などを通じて漆の魅力を伝えるのが目的。ほとんどの場合、体験に使用されるのは「かぶれるから」という理由で化学塗料が多いが、ここは本物の漆。「そうでないと意味がないんです。子どもたちだからこそ本物で経験してもらいたい」(智弥氏)。“本物を使うことは教育に繋がる”というのが學舎の考え方だ。
本物を使って失敗させること
ただ、成功させることだけが教育ではない。 壊れにくい物や使い捨て感覚で使える商品が 人気を集める昨今、逆に「落としたり、乱暴 に使ったら壊れるということを伝えることが 教育には最も重要。子どもはこういう体験を するとすごくショックで二度と乱暴に使わな いようになる。
そうすると物を大切にしよう と感じる」と室瀬先生。「1 万円の高い漆のお椀でも落として壊れることによって、その 子は 1 万円で一生、物を大切にすることを 覚える。更に壊れても直して使い続けられる という、漆器の素晴らしいところまで含めて 伝えたい」。漆器を使うということは、正しい 作法を身につけることや、「物を大切に使おう」という心を育むことに繋がる。漆にはそんな力が秘められている。
「一度に大勢に伝えることは難しいですが、學舎ならではの充実した体験をしてもらえるようにと心がけています。まずは子どもたちの記憶に何か少し何か少しでも残ってくれたら」と智弥氏。目白漆學舎では今後も様々な試みを続ける。