構造乾漆 Liquid to Solid しずくからかたちへ
2016/11/18
六本木・ AXISギャラリーで 開催の「構造乾漆 Liquid to Solid しずくからかたちへ 土岐謙次(漆造形) × 金田充弘(建築構造)」
こちらのオープニングシンポジウムに 行ってきました。
4年ほど前の展示会で初めて構造乾漆のスツールに座らせて頂きました。
座りやすくデザインされた形とそれが麻布と漆で出来ていることへの感動。
今回もとても楽しみにしていた展示会です。
乾漆とは古くから仏像製作などに用いられた漆芸技法で、生漆を主な原料として麻布を貼り合わせて作る造形技術です。
構造乾漆とは、この乾漆「麻布(天然繊維)を生漆(天然の樹脂)で固めたもの」がFRP「合成繊維を合成樹脂で固めたもの」の代用になるのではという提案で、その研究に関する様々な展示が行われていました。
寒冷紗を重ねて作った乾漆パイプの荷重試験や引っぱり試験などの展示。
面白かったのが「乾漆シート」の開発。
ビニールの上に漆を塗って布を漆で何枚も塗り重ね乾かしたのち、ビニールからはがして使用します。
漆に不慣れな人でも製作可能な工法を提案されていました。
どのように強度をだすか、いかに作りやすく使いやすくするか、漆を産業として広く利用するための新たな取り組みが行われていました。
展示の多くは3DCADで設計され、3Dプリンターなど、デジタル機器が漆の製作に多く利用されていました。
漆の美しい塗膜と計算された技術は、漆の素材としての可能性とデザインとしての美しさを感じることができました。
オリンピックのエンブレムで有名な野老 朝雄氏と土岐先生のコラボレーション作品
オープニングトークではファッションデザイナーの藤原大氏を交えて、構造乾漆の研究とこれからの漆についてお話されました。
頑丈です!直径6cm長さ12cm厚み3mmの乾漆パイプが1.8トンほどの圧力に耐えます。
漆の可能性を広げる、構造乾漆や漆シートなど、いわゆる工芸の漆という概念をこえた取り組み。
こういった漆の科学的研究とプロダクト開発による様々な提案のお話など興味は尽きませんでした。
一方で原料である漆は98%を外国産に依存していて、国産漆が危機的状況であることもお話しされました。
土岐研究室では東日本大震災で耕作放棄された土地に漆を植える活動も行っておられます。
私も漆屋目線で漆の状況についてお話する機会を頂きました。
私たちが原料として98%を頼っている中国産漆も実は、漆の木や漆搔き職人さんの減少で、毎年輸入価格が上がっています。いずれ国産と価格も変わらなくなるのでは?
中国の方々に植栽の意識はありません。木はなくなる一方です。
そもそも輸入が止まったらどうしよう?
国産漆も職人さんの高齢化、後継者問題、木の育成、確保など問題はたくさんありますが、漆の文化をつなぐため、少しずつ国産漆を増やしていきたい思いをお話させて頂きました。
トークイベントの終わりには会場内での漆掻きの実演が行われました。
切り倒された木からは、まだにじみ出る漆の樹液を見ることができました。
東京のビルの中で漆掻きを体感できるという取り組み。
はじめて漆搔きを見た方はどう感じたでしょうか?切り倒されてもまだ樹液を出し続けるウルシの木。
多くの方に漆の事を様々な形で伝えようとする熱意がこの展示会にはありました。
装飾としての漆だけでなく、構造体として漆の可能性を広げる研究開発と提案
漆を知ってもらう、魅力を感じてもらう展示会やワークショップの開催
循環可能な資源として、ウルシの植栽活動など
漆の未来を考えた取り組みの数々。
日本の伝統的素材である漆やその文化を絶やしてはいけないという熱い思いもあり、漆という素材を知っていて加工ができる、科学的研究も行いつつ、人をひきつけるかっこいい物を作ってしまう土岐先生と金田先生
天然素材によるこれからのものづくり
漆の可能性は無限大
そんな思いを再認識させてくれる展示会でした。
漆造形の土岐先生と建築構造の金田先生のこれからの取り組みがとても楽しみです。
構造乾漆の詳しい研究はこちら