感覚の解像度を取り戻すー漆と竈ーそれぞれの活動

一般社団法人パースペクティブ主催のトークイベント「感覚の解像度を取り戻す―漆と竈―それぞれの活動」が2月14日、京都市下京区の「TRAFFFIC」で開催されました。

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パースペクティブは、私たち堤淺吉漆店とビジョンを共有する一般社団法人。当社・堤卓也が共同代表を務め、天然素材「漆」を主軸に、人や街、企業や行政をつなぎ、新たな価値観や可能性、循環可能な暮らしの提案を目指し昨年6月に設立しました。パースペクティブに関しては、また詳しくご説明させて頂くとして、今回のこのイベントをレポートしたいと思います。

スピーカーとして登壇したのは、筑波大学(芸術系)准教授の宮原克人さんと原忠信さん、そして当社・堤卓也の3人。一般社団法人RELEASE桜井肖典さんのファシリテーションで参加者と共にディスカッションも行われました。

一人目にご登壇頂いた宮原さんは、数年前の東京・明治大学、昨年青森での「漆サミット」で堤卓也とゲストスピーカーとしてご一緒させて頂いたのがご縁。それぞれの活動に共感し、今回のイベントが実現しました。木曽漆器の産地で生まれ育ち、現在は筑波大学准教授を務める宮原さん。学生に漆芸技術や漆の魅力を伝えると共に、東日本大震災の被災地支援「創造的復興プロジェクト」などを推進してこられました。また木曽漆器青年部と共に貸し出し用の漆器「かしだしっき」プロジェクトを立ち上げ、活動されています。

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この日の発表では、木曽漆器の魅力を伝える動画を流し、産地の歴史や特性などを説明。京都や輪島と比べ、日常品としての漆器を中心に栄えた木曽。特に木曽のお箸は産地独特の形状らしく、他には無いカタチなのだとか。この日はなんと参加者に一膳ずつそのお箸がプレゼントされるというサプライズも。「このカタチって、やぼったいんです。でも木曽の人たちは、このカタチが当たり前」と宮原さん。逆にやぼったいから他には無いともおっしゃっていました。でもそれってはっきりとした産地のカラー。そのことをあえて参加者に伝え、現物を使ってもらう。そのパッケージには、ストーリーが記されており、高級品やデザイン重視の商品展開では無く、共感や体験を重視された取り組みは素晴らしいと思いました。

宮原さんのお話しの中で最も印象的だったのは「木曽の魅力に、木曽の人たちが気づいてないところがある。私は、木曽の人たちに向けてプロジェクトをしている部分もある」という趣旨のお言葉。つまり、産地では当たり前のモノやコトが、実はすごいポテンシャルを持っているということを外から見た木曽出身の宮原さんは実感しているからこそ、産地の「本当の魅力」を客観的に内外に発信しておられるのだと思いました。

これは、他の産地や伝統工芸にも言えることで、「漆」という素材そのものにも当てはまること。私たちが「BEYOND TRADITION」などで伝えている漆の新たな可能性とは、まさに同じことなのです。

さらに、イベントの目玉でもあった貸し出し用の漆器「かしだしっき」の取り組みも大変興味深い内容でした。お話しの中で、いくら興味のない人に高級な漆器の魅力を語り、勧めてもほぼ伝わらない。まずは使ってもらいながら、その魅力や特性をわかってもらう、というお話しがありました。つまり「体験」してもらうことにまずは価値を付けるということ。先ほどのお箸と同じ。漆器や漆との出会い、接点をまずは作ることが大切だというお話し。

今回のイベントでもまさにそれを実行。料理は、京都市北部の山間地、京北町の地場食材を中心とした「雷来軒」外山雷花ちゃんのケータリング。里山の暮らしに魅力を感じ、移住してきた彼女の想いが込められた料理が、かしだしっきに盛り付けられる。漆器にも、料理にも伝えたいメッセージがある。これを食べる人に伝えたり、感じ取ったり。これこそが漆をつなぐためには必要ではないでしょうか。漆器を販売するに当たって、店がお客様にどんな素晴らしい営業トークをするよりも、今回のような体験をする方が、何倍もその魅力は伝わる。そう実感しました。

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続いて原さんのご登壇。
原さんが発表された取り組みは、遊びや体験を通じた実におもしろいプロダクトが多い。その代表的なプロジェクト「back to japan」は、雪山をはじめ、自然の中で漆器を使う醍醐味を体現する魅力的な取り組み。ビジュアルや目新しさを重視しがちな漆の業界ですが(もちろんそれも素晴らしいこと)、原さんたちは、宮原さん同様、「遊び心を持って体験すること」から生まれる、あるいは感じる、漆の新たな可能性を発信していると感じました。

また筑波大学の創造的復興プロジェクトの一環で始まった「竈プロジェクト」も素晴らしい取り組み。物資が十分に行き届かない災害時。「お米ならある」という場合でも電気やガスが無い。そんな時、火さえあればご飯を炊ける「竈」の果たす役割は大きい。これに着目し、学生と共に自作の竈を自転車にキャリーを付けて運び、被災地に温かいごはんを届けた。竈のまわりには「人が集まる」。古くから伝わる「日本の文化をつなぐ」。こんな意味合いもこのプロジェクトには込められているような気がします。

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最後に登壇したのは当社・堤卓也。
利便性が重視され、安価大量生産、使い捨ては当たり前の現代において、人々の日常生活から遠ざかる漆の現状に危機感を感じ、2016年から始めた「うるしのいぽ」プロジェクト。漆の新たな価値観や可能性を伝える取り組み「BEYOND TORADITION」。さらに、一般社団法人パースペクティブとして、京都市の協力を得て、京北町で市の保有する森を借り、「工藝の森」を創る構想を発表。漆を軸に、他の天然素材や工芸分野、教育や子育て、地域活性化事業など、あらゆる可能性を模索しながらそのハブ的な役割を目指します。

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それぞれの発表の後は、お待ちかねの食事。かしだしっきに盛られた雷来軒・外山雷花ちゃんの渾身の竈料理でお腹を満たし、軽くお酒も入ったところで、参加者を交えてのディスカッション。桜井さんのコーディネートで、とても有意義な時間となりました。

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3人の話しに共通するキーワードは「体験」。「モノからコト」。堤淺吉漆店、パースペクティブが目指すのは、漆屋だけ、漆業界だけではなく、もっと大きな枠組みで漆の魅力を伝えること。産地を超え、業種を超え、連携することの大切さをこのイベントでさらに実感しました。その連携を推進する役割を担うのがまさにパースペクティブの使命です。

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asakitichi tsutsumi